大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和34年(く)13号 判決 1959年6月01日

抗告人 古橋惣一

決  定

福岡刑務所在監

抗告申立人(氏名略)

右の者から、福岡地方裁判所小倉支部昭和三三年(つ)第二号起訴強制事件に関し、昭和三四年三月三〇日付を以て福岡地方裁判所小倉支部がなした裁判官忌避申立却下決定に対し、適法な即時抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要領は、

抗告申立人は、その告訴にかかる小倉警察署々員北村玉夫外二名に関する公務員暴行陵虐被疑事件につきなされた検察官の不起訴処分を不服として、福岡地方裁判所小倉支部に対し同事件を裁判所の審判に付することを請求していたところ(同裁判所昭和三三年(つ)第二号起訴強制事件)、同裁判所は裁判長裁判官木下春雄、裁判官安仁屋賢精、裁判官村瀬鎮雄の合議体により昭和三三年七月一一日付を以て請求棄却の決定をしたが、右合議体の構成員として関与した裁判官安仁屋賢精は、次の理由により不公平な裁判をする虞があるものである。即ち、同裁判官は、福岡地方裁判所小倉支部に係属していた抗告申立人に対する刑事被告事件の担当裁判官であるところ、昭和三三年三月八日抗告申立人に対し右被告事件の判決言渡のため同月一〇日同裁判所に出頭するよう命じたので、抗告申立人は同月八日午後同裁判官に対し右期日に出頭できない旨の事由書を提出したのであるが、同裁判官は同月一〇日当時抗告申立人が勾留されてきた小倉拘置所の所長及び職員に対し抗告申立人を同日同裁判所に強制的に出廷させるように命じ、同拘置所長等をして同日抗告申立人を同裁判所に強制的に出廷させ、以て同拘置所長等の公務員暴行陵虐行為の教唆をなし、且つ同日同裁判所の法廷において、傍聴人環視の中で病気の身でありながら強制的に出廷せられたため吐血している抗告申立人が同拘置所職員により引起され左右から押しつけられている有様を現認しながら、敢て抗告申立人に対する右被告事件の判決の言渡を強行し、以て抗告申立人に対し暴行陵虐の行為をなした者であつて、抗告申立人は、同裁判官の抗告申立人に対する右暴行陵虐教唆及び暴行陵虐行為に関し、昭和三三年三月一七日付を以て福岡地方検察庁小倉支部に同裁判官を告訴したのである。而して、前記北村玉夫外二名に関する公務員暴行陵虐被疑事件は抗告申立人の右被告事件に関連するもので、右被告事件については抗告申立人は無罪を主張しており、右裁判官はこれらの情を知愁していたのであつて、本来ならば同裁判官は抗告申立人請求にかかる前記起訴強制事件の審理裁判に関しては刑事訴訟規則第一三条に則りその合議体の構成員となつてこれに関与するのを自ら回避すべきであるに拘らず敢てこれに関与し、不公平な審理をして前記の如く請求棄却の決定をしたのである。なお、同裁判官は、これよりさき昭和三二年一二月二六日付を以てなされた抗告申立人請求にかかる前記北村玉夫外二名に対する特別公務員暴行陵虐被疑事件に関する起訴強制事件に対する請求棄却の決定の裁判にもその合議体の構成員として関与している。よつて、抗告申立人は刑事訴訟法第二一条第一項第二二条但書により前記起訴強制事件の審理裁判に関し裁判官安仁屋賢精を忌避する申立をしたのである。

これに対し、原裁判所は、裁判官に対する忌避の制度は裁判官が一定の事件につき職務を行うに当り公正を妨げるような事情のある場合において、その者をして当該事件に関与せしめることを排除し、以て裁判の公正を担保せんとするものであるから、裁判官に対する忌避の申立は刑事訴訟法第二二条但書の規定に拘らず遅くとも当該裁判官の関与する事件の終局的裁判の告知があるまでになされるべきであつて(終局的裁判の告知後はその裁判官のなすべき行為は存在せず、終局的裁判にして不服ならんか、これに対する上訴の方法をもつて争うべきである)既に終局的裁判の告知があつた後においては、忌避の申立はその時期を失し不適法として却下を免れないものと解すべきところ、本件記録及び前記起訴強制事件の一件記録を調査するに、忌避を申立てられた前記裁判官安仁屋賢精が関与した起訴強制事件については、昭和三三年七月一一日付を以て請求棄却の決定がなされ、右決定書の謄本は同月一六日当時小倉拘置所に在監していた抗告申立人宛に送達されたのであり、本件忌避の申立はその後である同月二一日付を以てなされたことが明らかであるから、本件忌避申立は不適法なものであるとして、これを却下した。しかし、前記起訴強制事件における請求棄却決定は、判決前の決定であつて、終局的裁判ではなく、また、同事件に対し如何なる裁判官が審判に当るかは抗告申立人には全くわからないのであり、昭和三三年七月一一日付の請求棄却決定が同月一六日抗告申立人に送達されて始めて関与すべからざる裁判官安仁屋賢精が合議体の構成員に加わり不法処分をしている事実を覚知したのであるから、本件忌避申立は刑事訴訟法第二二条但書により適法なものである。同裁判官を排険の上前記請求棄却決定を更正し正しい裁判をして戴きたい。というものである。

案ずるに、起訴強制事件における請求棄却決定は該事件の終局的裁判であるから、右決定の告知があつた後においては、裁判官忌避の原因があることをその後に知つたとしても、もはや裁判官忌避の申立をすることはできず、もし右決定が不服であれば上訴の方法により争うべきものであるから、原決定がこれと同一の見解に立ち前顕理由により本件忌避申立を却下したのは相当であり、記録を精査しても他に原決定を取り消すべき事由はなく、本件抗告は理由がない。よつて、刑事訴訟法第四二六条第一項後段により主文のとおり決定する。

(裁判官 青木亮忠 内田八朔 中島武雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例